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遠くになった「巨人・大鵬・佐藤栄作」の時代

2013.01.20

昨日亡くなった第48代横綱・大鵬は、私たち昭和30年代生まれの人間にとって特別な存在だった。史上最多の幕内優勝32回を誇り、柏戸と「柏鵬時代」を築いた大鵬は、日本の「高度経済成長」を象徴する人物だった。

よく私たちの世代の人気を独占した有り様が「巨人・大鵬・卵焼き」という表現で紹介される。しかし、これを「人気」ではなく「君臨」という観点で見直せば、私たちの世代は「巨人・大鵬・佐藤栄作」だったと思う。

高度経済成長のあの時代、子どもだった私たちは、野球は「巨人」であり、相撲は「大鵬」であり、総理大臣と言えば「佐藤栄作」の中で育った。

私自身は、あまりに大鵬が圧倒的な強さを発揮していたために、北葉山や佐田の山、そして玉乃島(のちの玉の海)を応援していた。しかし、あの時の憎たらしいほどの大鵬の強さは、驀進する「成長時代の日本」をまさに象徴していたと思う。

そして、総理大臣の佐藤栄作は、子どもの目から見たら“悪役”そのものだった。それでも今から見れば、いくら憎まれようと自信とパワーに溢れた政治家であったことは間違いないだろう。

「総理大臣」というのは、佐藤栄作の固有名詞のように思っていた私たちにとって、佐藤が総理の座を降りる時のことは忘れられない。

長く記者クラブと対立していた佐藤は、新聞記者たちを退席させ、テレビカメラだけに向かって退任会見をおこなった。総理大臣と言えば佐藤栄作だった私たちにとって、その光景を見た時の驚きと衝撃は忘れることができない。

王、長嶋を擁して9連覇を成し遂げた巨人の強さも他を圧していた。日本にとって、あれほどの「成長と安定の時代」は、もはや考えられない。

私はそんな時代のヒーローだった大鵬を、拙著『あの一瞬 アスリートはなぜ奇跡を起こすのか』(新潮社)の中で取り上げさせてもらったことがある。

舞台は、柏戸と大鵬が激突した昭和38年9月場所の歴史的な「全勝対決」である。私は、68歳になっていた大鵬親方に長時間取材に応じていただいた。

柏鵬時代とは言っても、実質的には「大鵬時代」だったあの時、史上初の6連覇を達成した大鵬と、横綱になって一度も優勝できず、休場がつづいていた柏戸。引退の瀬戸際に立たされていたその柏戸が休場明けにもかかわらず、大鵬との千秋楽での全勝対決まで突っ走ったのだ。

柏戸はこの時、大鵬を押し出しで破って全勝優勝を遂げ、見事な復活を果たした。「昭和最高の決戦」と呼ばれた有名な一番である。しかし、この時の一番が「八百長ではなかったか」という中傷が飛び交う騒動となり、ふたりはその渦の中に巻き込まれた。

私はこの対決の秘話を柏戸が全勝優勝に至る長期休場の間に過ごした那須塩原での「リハビリ生活」と地元の人々との「交流」に焦点を当てて、前述の『あの一瞬』の中で描かせてもらった。

取材のために貴重な時間を割いてくれた大鵬親方は、当時「引退」の瀬戸際に追い込まれていたライバル柏戸の姿と苦悩について、私に話してくれた。

それまではライバル同士で、ほとんどまともに口をきいたこともなかった二人は、この全勝対決以降、「欠かせない友となった」と、大鵬親方は語ってくれた。

場所が終わって数日後、協会から八百長騒動のためのヒアリングを受けた二人は、その帰り、たまたま同じ車に二人だけで乗ったという。その時、大鵬は柏戸に「いろいろつらかったね。優勝おめでとう」と声をかけたそうだ。その時、柏戸は「う、う、うん」と言ったまま、ボロボロと涙を流した。

そのまま車の中で、ぐーっと泣くライバルの姿を目にあたりにした大鵬は、「ああ、この人はなんて純情でまっすぐな人なんだ」と思い、それ以降、「おい」「おまえ」と呼び合う心を許す友になったというのである。

そして、平成8年12月、58歳という若さで急逝した柏戸の訃報を受けて駆けつけた大鵬親方は、「おい、何してるんだ。起きろよ。なに寝てるんだ!」と、目を瞑ったままのライバルに向かって叫んだそうだ。大鵬親方は、その時の気持ちも私に淡々と伝えてくれた。

その大鵬親方も、72歳でライバルのあとを追った。2度の6連覇を含む最多の32回優勝。史上最強横綱と言えば必ず「大鵬」と挙げられる昭和の大横綱が死去し、日本が最も活気に溢れていた頃の牽引者がまたひとり去ったのである。

豊かさの向こうに幸せがあると信じて疑わなかった「巨人・大鵬・佐藤栄作」の時代が、近頃、妙になつかしい。

カテゴリ: 相撲

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