門田隆将オフィシャルサイト | kadotaryusho.com

  • 最新情報
  • プロフィール
  • 著作リスト
  • 講演のご依頼
  • ブログ
(C) KADOTA RYUSHO. ALL RIGHTS RESERVED.
BLOG | KADOTARYUSHO.COM

ブログ

「習近平」を追い詰められないアメリカが歴史に残す「禍根」

2015.06.28

激動する国際情勢と、いつまで経っても「本質論」に至らない安保法制をめぐる日本の国会審議。中国の戦略にアメリカが完全に呑み込まれつつある今、「このままでアジア、そして日本は大丈夫なのか」という思いがこみ上げてくる。

6月23日、24日の2日間、ワシントンでおこなわれた米中戦略経済対話は、完全に“中国の勝利”に終わった。そんなはずはない――そう言いたい向きも少なくないだろう。しかし、私は、オバマ大統領が「いつもの失敗を繰り返してしまったなあ」と思っている。例の「オバマの口先介入」というやつだ。

アメリカと中国が安全保障から経済まで、幅広い課題について話し合うこの「対話」でアメリカがどこまで中国の譲歩を引き出せるか、世界中が注目していたと言ってもいいだろう。

報道だけ見れば、アメリカは、南シナ海での中国の“力による現状変更”に対して、中止を改めて要求し、オバマ大統領自身も、中国代表団との会談の中で、「緊張緩和」のための具体的措置を求める発言をおこなったという。それは、大統領による「異例の言及と抗議」とのことだが、本当にそんな勇ましいものだったのだろうか。

答えは、対話が終わったあとの記者会見を見れば明らかだろう。アメリカのケリー国務長官とルー財務長官、中国の楊潔篪(ようけっち)国務委員と汪洋副首相の4人がそろって記者会見したが、それは、イランと北朝鮮の核開発問題やテロ対策、また地球温暖化対策など、「幅広い分野で協力していくこと」で合意したことが成果として強調されただけだった。

逆に、その場で楊国務委員に「中国は領土主権や海洋権益を守る断固とした決意を再確認した」と発言され、「異例の言及と抗議」が、なんの効力も発していないことが明らかになったのだ。つまり、中国側は、アメリカから経済制裁等の具体的な対抗措置への示唆も言及もなく、いつも通りの「口先介入で終わる」ことを、とうに見越していたのである。

私は、アメリカは将来に大きな禍根を残した、と思っている。実は、中国にとって、このアメリカとの対話はかなり「覚悟のいったもの」だったと思う。今春、初めて岩礁埋め立てを「砂の万里の長城」という表現で告発し、空からの監視と国際世論を巻き込んだアメリカの戦略は順調に進んでいたかのように思えた。

なぜなら、中国にとって恐いのは「最初だけ」だからだ。自国の領土と軍事基地として「既成事実化」を狙う中国は、その時期さえ凌げば、あとは「どうにでもできる」ことを長年の経験から熟知している。

軍事基地を完成させた後、つまり“既成事実”としてスタートした後、いくら抗議が来ようと、それが何の功も奏さないことは、お見通しなのだ。それは中国の建国以来の歩みを振り返れば一目瞭然だ。

1949年の建国以来、ウィグル侵攻(新疆侵攻)、チベット侵攻、朝鮮戦争、中印戦争、内モンゴル粛清、中ソ国境紛争(珍宝島事件)、中越戦争……等々、毛沢東の「権力は銃口から生まれる」という言葉通り、周辺国とも、あるいは国内でも、力による政策を一貫してつづけてきた中国は、“既成事実化”が「すべて」であることを誰よりも知っているのだ。

南沙諸島の7つの岩礁に軍事基地と港湾施設さえつくり上げれば、あとは「どうにでも」なり、「国内問題に干渉することは許されない」と言って突っぱねたら、自分の思うがままであることなど、先刻承知なのである。

しかし、習近平・国家主席が置かれている現在の状況を考え合わせると、アメリカの弱腰は、実に残念に思える。それは、いま繰り広げられている中国国内の熾烈な権力抗争が大きくかかわっている。

多くの中国ウォッチャーが言及しているように、現在、習近平氏は、胡錦濤・前国家主席の派閥との激しい権力抗争の真っ只中にある。「中国共産主義青年団(共青団)との戦い」とも称されているが、腐敗撲滅運動に名を借りたこの権力抗争によって、中国の指導部内が不穏な空気に覆われているのは事実だ。

その上、習近平氏は、昨年来、人民解放軍の旧勢力との戦いにも手を出してしまった。今年3月、人民解放軍の権力者、郭伯雄(元共産党軍事委員会副主席・元上将)を拘束し、昨夏には、これまた権力者の徐才厚(同じく党軍事委員会副主席・元上将)の党籍剥奪(徐才厚氏は今年3月死去)をおこない、習氏は有無を言わせぬ権力抗争を仕掛けている。

郭伯雄と徐才厚は、およそ10年間にわたって、人民解放軍の権力者として振る舞い、多くの子飼いの幹部がいる。武力だけでなく、「やっていない商売はない」と言われるほどの巨大な商圏と利権を持つ人民解放軍を敵にまわすことは、たとえ国家主席でも相当な覚悟と勇気が必要なことは言うまでもない。

軍を敵にまわせばクーデターの恐れもあるし、事実、習氏は、首都・北京の警備主任を自分の信頼のおける人物にすげかえ、「暗殺」を具体的に防ぐ方策を採っている。

戦いの原則から見れば、相手が強大な場合、戦線を一気に拡げたり、多方面で同時に戦うことは絶対に避けなければならない。しかし、習氏は、ただでさえ胡錦濤派と激しい権力抗争をおこなっているさなかに、人民解放軍ともコトを構えてしまったのだ。

そんな時だからこそ、アメリカにとっては「今」が千載一遇のチャンスだったと言える。自らの存在を否定された上、中国に新たなリーダーの登場を期待する「戦略」へとアメリカが舵を切ったら、習氏は相当、追い込まれたに違いない。

しかし、今回の「対話」がオバマ大統領のいつもの「口先介入」だけで終わろうとしていることに、習氏はどれだけ安堵しているだろうか。「してやったり」とほくそ笑む習氏の顔が思い浮かぶ。

その意味で、南沙諸島の“力による現状変更”は、中国の既成事実化が成功し、完全にアメリカの敗北に終わりつつあると言える。

アメリカは、7つの岩礁を中国領と認めないために、「口先介入」ではなく、米軍機や米艦船を12カイリ以内に派遣し、国際世論を背景に実際に“わがもの顔”の中国にプレッシャーを与えなければならない。

すでに、南シナ海は、海南島に海軍基地を置く中国の事実上の「支配下にある」と言っていい。中国は、1隻あたり10本の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を積み込み可能な原子力潜水艦をすでに「3隻」保有している。2020年までには、これが倍増すると見られている。

海軍の総兵力は、およそ26万人にのぼり、通常潜水艦だけで60隻以上保有しているのである。北海艦隊、東海艦隊、南海艦隊は、軍事費の増大につれて、年を経るごとに戦力が充実して来ている。彼らは、南シナ海全域を遊弋(ゆうよく)し、周辺国との摩擦を厭わず、事実上の中国の“内海化”を果たすだろう。

日米の隙(すき)を突いて、尖閣(中国名・釣魚島)に乗り出してくるのも、時間の問題だろう。専門家が指摘するように、最初は人民解放軍の軍人が“漁民”を装って上陸し、日本の海上保安庁がこれの排除に苦戦して自衛隊が出動するのを「待つ」のではないか、と言われている。これに類するやり方で、小規模か大規模かを問わず、“紛争”に発展させる方法をとるのだろうか。

権力掌握に苦戦する習近平氏の基盤が脆弱な今こそ、毅然とした姿勢を貫くべきなのに、アメリカは、また将来に大きな禍根を残そうとしている。“弱腰”と“無策”をつづけるのは、アメリカ民主党の宿䵷(しゅくあ)でもあるのだろうか。

それと共に、中国が大喜びするような枝葉末節の質疑に終始し、相変わらず「空想的平和主義」に陥った空虚な議論しかできない日本の国会。野党議員や日本のメディアを手玉にとり、嗤(わら)っているのは、中国だけである。

カテゴリ: 中国, 国際

最新のエントリー

カテゴリー

アーカイブ