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浅田真央、「命綱」を掴め

2010.02.26

凄まじい女の戦いだった。

震えるような緊張感に包まれた、華やかさとは正反対の“妥協のない勝負の世界”に、多くの人たちが息を詰め、そして魅了された。

世界ナンバー・ワンの力を持つキム・ヨナが、そのまま浅田真央を押し切るのかどうか、それはキム・ヨナの「精神力次第」だった。

あの緊張感の中で見事なハートの強さを発揮したキム・ヨナが、浅田真央を上まわった。しかし、敗れた浅田の試合後のインタビューは感動的だった。

こみ上げてくるものを抑えながら必死にインタビューに応えようとする姿は、彼女の誠実な人柄を表わしている。負けた悔しさが涙となって、嗚咽となって、観るもののハートに飛び込んで来る。

「悔しいですけど……自分のできることはできたかな、と……」。浅田は、あふれ出る涙の中で、彼女しかできないトリプルアクセルを2回成功させたことに対する女の意地を示した。

そして、試合の4分間の長さを問われ、「いろいろ考えて長かったな、と思ったんですけど……」と、去来するこの「4年」の年月の方を表現した。一流のアスリートにしかわからない「敗れる」ことの悔しさ。それがこの4年の年月の重さと共に彼女の頭に蘇ってきたのだろう。

15歳で共に世界に鮮烈デビューしたキム・ヨナと浅田。先行した浅田を追いに追ってナンバーワンとなったキム・ヨナ。最後に決着をつけたのは、両者のほんの少しのハートの強さ、言いかえれば、“勝負強さ”の差だった。

この女の戦いを見ながら、私は、「新潮45」で現在連載中の「スポーツドキュメント“あの一瞬”」の第1回でお会いした体操の加藤沢男さんの言葉を思い出していた。周知の通り、加藤さんは、いまだにアジア最多の「金メダル8個」を持つ元体操選手である。体操ニッポンを支え続けた往年の名選手だ。

加藤さんは、極限の緊張状態に打ち勝つために「失敗をする練習をつづけた」男である。加藤さんは、「あらゆる角度で失敗して、その感覚を自分のものにしていく」ことに主眼を置いて練習をおこなったのだ。

そして「どんな時にでも大丈夫という“命綱”」を掴み、極限の緊張状態を凌駕する男として世界のトップに君臨しつづけた。加藤さんの「アジア最多」の金メダル8個の秘密は、そこにあった。

浅田は、新たな「4年」に挑むだろう。その長い年月の間に、あらゆる角度で「失敗」して、是非、その「失敗の感覚」を自分のものにしていって欲しいと思う。

4年後の五輪では、加藤沢男のような“命綱”を持った選手に生まれ変わり、キム・ヨナともう一度、感動の名勝負を繰り広げて欲しい。

私は、浅田の涙のインタビューを観ながら、そんなことを考えていた。

カテゴリ: 女子フィギュア